「新時代の芸術家によせて」(8) 天川貴之
ルソーが『エミール』の冒頭で「万物を創る者の手を離れる時、全てのものは善いものであるが、人間の手に移ると全てが悪くなる。」と述べられたように、我々は、多かれ少なかれ、大自然の一部として、大自然を模倣して芸術を創造しようとするが、自らの心が大自然の心から離れて、大自然の崇高なる芸術を見失えば見失う程に、自らが創る芸術もまた、その輝きを失ってゆくのである。
だから、私はあえて、現代に生きる芸術家の方々に、新時代の芸術は大自然に回帰する所から始まるのだと訴えたい。
人為を空しくして大自然の偉大なる芸術観に学び、大自然の崇高なる精神に芸術的叡智を汲み取る時、そこに天衣無縫の芸術が誕生してゆく。
そして、このような芸術作品こそが、大自然の心から離れてゆくことを美徳のように思い、迷子のようになって本当の美を見失っている数多くの現代人の心に、永遠なる大自然の生命の懐かしい旋律を憶い出させて下さるにちがいない。
大自然にあるものこそが永遠であり、大自然に汲むことのないあらゆる人為は無常ではかないものである。
新時代が求めている芸術家とは、自らの心の内に、永遠の理念の光を輝かせ、その灯をもって大自然を照らし見、人為をはるかに超えた永遠の創造者と一体となって、自らが照らし見た無限の理念の美の一部を、新時代を彩る一つの自然の創造物と為して、多くの人々の心の糧と出来るような、大自然の生命を体現した芸術家なのである。
(おわり)
by 天川貴之