序、『現代を生きる精神によせて』(3) 天川貴之
人々の心は、根底において一つにつながっている。そして、時代の理念そのものと深く接している。そこに、その時代を生きる者にとっての使命があり、個性が秘められているのである。
あなたが真の意味で確信し真実であると思えたものは、他の多くの人々にとっても真実であり、道しるべであることが多い。あなたが真の意味で魂を打ち震わしたものは、他の多くの人々の魂をも打ち震わせ、新時代の息吹として成長してゆくものが多いのである。
新時代の精神、新時代の潮流は、一人一人の心の奥底から湧き出してゆく所の流れであるのだ。たった一人では時代は変わることはない。たった一つの思想や哲学者のみでは、本当は時代は変わらないのである。
その時代に生きるすべての人が、己の心の内に、時代の宝石、時代の潮流を発見してこそ、新時代は真に創造されてゆくといえるのである。
ならば、忙しき時代に流されて、真に過去を知らず、真に未来を知らず、そして、何よりも、現在そのものを知らない人々よ、心の奥底に深く穿ち入れ。
軽薄な言論に流されず、惑わされず、本当のもの、本当の理想を魂の内に求めよ。本当の真情、本当の精神を自己の内に求めよ。
さすれば、あなたは、微かに現代というものを知ることが出来るであろう。そして、過去も、未来も、その流れんとする方向が見え隠れするであろう。
その心の内にひらめきたる海図を持ちて初めて、人生の航海、時代の航海というものは出来るのである。海図なく、ただ波にまかせ、潮にまかせるだけで、ただ風の吹くままに、鳥の飛びゆくままに、航海など出来はしないのである。
向かうべき理想世界、向かうべき新世界は、必ずあるのである。あのコロンブスの航海する先に、まだ見ぬ新大陸があったように、私達の目指すべき世界、新時代は確かに実在するのである。
誰もそれを確かに見ている者はいない。ある人は希望として、夢として、ある人は幻として見ているものであるかもしれない。しかし、確かに、人類共通の理想、次なる新世界は、心の奥底に誰もが直観出来るのである。
(つづく)