「新時代の音楽家によせて」(3) 天川貴之
リルケというドイツの詩人が、「若き詩人への手紙」の中で、詩を創るための最善の心得として、まず何よりも、自分自身に正直になり、自分自身のありのままの感情を詩にしてゆくことの大切さを訴えておられたが、音楽においても、自分自身の心に嘘をつかずに、自分自身の内にある良心の調べ、自己の理念の調べをそのままの形で音楽にしてゆく時に、本物の音楽が出来てゆくのである。
それは、少なくとも、まず、自分自身にとって本物の音楽たりうるのであり、そこに、自己の永遠の出発点を見い出すことが出来るのである。
学問においても、思想においても、自らの良心に忠実である態度が望まれるが、芸術においては、特に、それが心情の直接的な表現であるが故に、より一層望まれるのである。
しかし、それは、あくまでも出発点にすぎず、単に自己の心情に正直になるのみでは、ほとんどの場合、優れた芸術作品は誕生しない。
その基となる自己の心情そのものを、限りなく美しく、限りなく透明感溢れるものにし、限りなく優しく、限りなく平安なものにしてゆかなくてはならないのである。
(つづく)
by 天川貴之
(JDR総合研究所・代表)