「新時代のマルチメディアクリエイターによせて」(2) 天川貴之
我々は、一体何のために数多くのことをマルチメディアを通して知ろうとしているのであろうか。我々は、何のために数多くのことをマルチメディアを通して多くの人々に伝えようとしているのであろうか。
かかる根源的なる問いには、科学技術そのものは応えてはくれない。これは、これからますます科学技術を発展させてゆくことを当然のこととして受け入れている私達にとって、一人一人が改めて問い直してゆかなければならないことであろう。
しかし、老子が何故に無為自然をよしとされたか、その真意を探究してみると、結局の所、それが、逆説のようであるが、人間性を豊かにし、人間性を進歩させてゆく道であると考えられたからであろう。
かつてJ・J・ルソーは、「学問や芸術の発達、文明の発展がかえって人間性を堕落させている」という、近代社会の矛盾を鋭く批判された論文(学問芸術論)を世に問われたが、そのルソーにしても、文明社会批判と自然主義礼讃の意図は、本来の善なる人間性の回復にこそあられたのである。
ならば、マルチメディア社会の到来を前にして、ますます科学技術が発達してゆくことを望み、期待する我々としては、マルチメディア社会を真に人間性の向上へと活かしてゆく方法をこそ、常に検討してゆかなくてはならないであろう。
(つづく)